雨
ザアァ、ザアァ、と。 雨の音が煩い。 「……。」 「クロス」 背の高い青年が、隣にいた金髪の青年に声をかけた。 金髪の青年は、ただ黙って首を横に振る。 空は鈍い鉄色をしている。 まだ昼間だというのに、太陽はどこでサボっているのだろう。 傘も差さずに、ただ、雨に打たれる。 頬を雨が伝う。それは無意識のうちに流れた涙と混じり合って、地面へと落ちた。 重い溜息とともに。 「……。」 無言のまま、金髪の青年はすと地面に膝をついた。白い服が地の色に染まる。 長い髪が、泥水の上に広がった。 彼の目の前には、木と麻紐で作られた簡素な墓。 地面に十字の形で刺さっているその墓の下には、雨に打たれて色褪せた花が添えられてあった。 ザアァ、ザアァ、と。雨の音が煩い。 頬を伝う水が雨なのか、涙なのか、判然としない。 堅く目を閉じると、もうしないはずの鉄の匂いと、苦い土の味がした気がする。 「不安定だっただろうか」 「……気に病むな」 長身の青年に背を向けたまま、小さく呟いた。 雨の音で掠れかけたその言葉は、それでも彼の耳に届いた。 金髪の青年の三歩ほど後ろに、影のようにいる彼は、ふと目を伏せた。 閉じていた目を開いて、立ち上がって。 ……目に入る水は、雨だろうか。 『三人より二人の方が安定するだろう』 何度も頭を駆け巡る言葉。悪魔とは一体誰のことを言うのだろう? 確かに、自分の両目から光が消えていくのを、金髪の青年は感じていた。 視界に風景が入ってくる。が其れを認識してはいない。 ……可笑しくなってしまったのは目でなく頭だろうか? 「ヒーナ」 「……。」 振り向くと、微かに長身の青年の表情が強張った。 アァ矢張り、死んでいるのか。 ちらと墓を見て、そして。 「俺が逃げると言ったら、お前は如何する」 「付いて行くさ」 「”来る者は拒まぬが、去る者は許さぬ”……それでもか」 「今更か」 二人の青年は同時に、微かに、微笑む。 後悔も苦痛も悲しみも、全てを背負った笑みだった。 ――ザアァ、ザアァ、と。 雨の音が煩い。 |