折れた剣
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「……生きて帰ってきたか」 「そりゃな」 座ったままふる、と首を振ると髪についた埃や硝子の破片が舞い落ちた。 乱暴に頭を掻いて、青年は立ち上がる。 「で、何かあったのか」 問う声は女性のもの。 軽くウェーブした長い髪を無造作に後ろに流したその女性は、微かな期待を込めてそう問いかけた。 「何も。ったく、天井落ちてきて潰れるかと思ったぜ」 「はぁ……で、ゼファ。その剣はどうした?」 「げ、目ざといな……」 長い服の裾で隠すように持っていた剣をひょいと取り上げられた。 丁度刃の半分位のところで折れてしまっている剣。 「これは……もう使えないな」 「イヤ、天井をちょっとこう、支えただけで、な」 「……折れるに決まってるだろう」 剣士にとって命にも等しい剣を折って帰ってくる青年に、女性はただ溜息をついた。 自覚というか、誇りというものが欠けている。 ……生きて帰ってきたのだから、いいのだけれども。 「ってまァ、俺の剣じゃねぇし」 「は?」 にやり、と悪戯を思いついた子供のように笑って、青年は言った。 「コレ、塔に落ちてたヤツ。おいおいフィーネ……流石に自分のは折らねぇぞ」 「呆れた」 女性の手から折れた剣を取って、青年は柄の部分を見た。 何か模様のようなものが刻まれているが、彼の知識では何か分かりそうにもない。 「何だコレ……」 「守護か誓いか、その辺りの何かだろう」 興味があるのか、女性がその模様を軽く指でなぞった。 柄だけは汚れてもいないようで、指には埃一つつかない。 「らしいな。ここだけ磨り減ってねぇし」 そう言いながら、青年は女性が呟いた言葉をはっきりと聞き取った。 そしてしっかりと折れた剣の柄を握る。 相当良い剣だったのだろう。手に馴染むその感覚に、暫し酔いしれる。 「っし。んじゃもう一回行ってくるわ」 「……は?何をしに帰って来たんだ」 「生きてるヤツの顔見たかっただーけ。廃墟なんかじゃ気が滅入るしな」 「……呆れた」 けらけらと笑って、青年はまた調査の為に壊れた塔へと向かった。 手に折れた剣を握り締めて。 ……仲間の祈りが込められた剣を手にして。 |