空を見上げた。
幕を下ろしたように真っ暗な空に、貼り付けられた宝石のようなものが微かに光る。

ただ何となく、そうしたかっただけなのだけれど。

「……。」

そうして、僕は、この気持ちを振り切りたかっただけなのだけれど。

「……。」
「砂兎?」

傍らに居た一斗が不思議そうに僕を見た。
僕は黙ったまま、一斗を見た。
ビー玉のような目だ、と思う。白い顔に埋め込まれたビー玉。
輝くところは其処ではないのに。

「……何か有った?楽しそうじゃないね」
「色々……有り過ぎて分からなくなった」
「何で」

ふっと一斗から目を離して、芝生の上に投げ出している自分の足を見つめた。
膝を伸ばしているせいで遠く、闇に呑まれて、其処に足が有るかどうかは判然としなかった。

「……”疲れた”?」

体を支えていた腕の力を抜いて、芝生の上に寝転がる。
視界に黒と色とりどりの小さな光が広がった。
微かに、草の匂い。

「煩いなあ……取るなよ」
「口癖じゃん、其れ」

くす、と微笑んで一斗は空を見る。
暗いせいか、彼の肌が白いせいか、一斗がぼんやりと光って見える。
まるで、物語に出てくる生き物みたいだ。そう思って、僕は目を閉じた。
闇はまるで僕らを包むように其処彼処で跳ね回っていた。

「あ、飛行機だ!」

空を指差して、一斗は言った。
ゆるゆると目を開けて、彼の指差している方向を見る。

「……どれ?」
「ほら、あれ、あの光ってるの」
「全部光ってる」
「点滅してるヤツ」

一斗の横顔は薄っぺらい夜に包まれて良く見えない。
声は弾んでいる。

「アレ?」
「そうそう、アレ」

僕の指差した先に、明滅する小さな光が一つ。
金剛石のようなその光が、僕の指先に乗る。
一瞬だけの間。

「うわぁ、流れ星より良いもの見たっ」

飛行機なんて珍しくもないのに。

「何で?」
「だって、夜に飛行機見たの、初めてだよ」
「そうだけど」

ころころと笑いながら、一斗は歩き出した。
軽い足音が遠ざかっていくと同時に、彼の姿が闇に消えた。

「……。」

仕方なく立ち上がって、僕は一斗を追った。
裸の足に、芝生が冷たくて気持ち良い。

暫く夜を見つめて、そして僕たちは飛行機を探しに出掛けた。








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