4. 「触るな」 赤く染まった髪を後ろで縛り、血を払った大剣を背負い直して、不機嫌そうに少年はそう呟いた。 「フィミュー……怪我は」 「あるわけないだろ」 ふる、とフィミユが軽く首を横に振ると、赤く染まった白い髪の先から水のように血が飛ぶ。 顔についた血を手の甲で拭っているが、手の甲も血で汚れているので逆効果になっている。 「……全部返り血」 頭から足先まで真っ赤に染まったフィミユを見て、少し吐き気がした。 それを知ってか知らずか、すたすたと近付いて彼はニウェルの手からナイフを奪い取った。 「ったく、もう少し役に立つと思ってたよ、お前」 「え」 血のように赤いフィミユの眼が、ニウェルを射る。 睨まれているわけではないのに、動けなくなった。 「役に立つどころか……足手まといじゃないか。西の民のクセして」 「……そりゃ、人を殺すだなんてことは」 「フン。馬鹿じゃないの」 ふいと視線を外して、フィミユは嫌そうに吐き捨てた。 「殺さなきゃ殺される。そんなの、当たり前じゃない」 不機嫌そうな声とは裏腹に、フィミユの表情は静かで、口元には微笑さえ浮かべられていた。 「……それにサ、気付かなかったの?お前があの塔を出るときだって、足元血だらけだったのに」 「!……まさかフィミュー」 「門番なんて全部殺したに決まってるじゃない……馬鹿?」 三日前のフィミユの台詞が脳裏に浮かぶ。 その声色も、微笑みも、全て。 「……上がってこないんじゃなくて」 「上がって来れないよねえ、そりゃ。死体じゃあ」 「っ!!」 にっこりと笑ってそう言うフィミユに、ニウェルは恐怖に似た感情を覚えた。 ナイフの刃先をニウェルに向けて、少年は。 「あれは雨漏りじゃなくって、床に倒れてた奴らの血だよ」 |