7.

太陽は、もう天頂にあった。
湿った空気と、強く射す日の光、そして傾斜のきつい山道が体力を奪う。
疲れを通り過ぎて痛みすら感じるようになった足を引きずって歩いていたが、はた、とそこで立ち止まった。

「……フィ、ミュ……うう」

はぁ、と大きく息を吐いて膝に手をつく。
額から頬へと汗が伝ったが、其れを拭う体力もない。

「ったくもう!何やってんだよ!」

先に歩いていたフィミユが、立ち止まって大声で叫ぶ。
険悪なムードになるのは嫌だったが言わずにはいられなかった。

「ちょ、……休もう、って」
「はぁ!?」

ザクザクと大きな音を立ててフィミユが引き返してくる。
大きな剣を背負っているのに、息一つ上がっていない。

「お前なあぁ、分かってんの!?」
「あー……うう、追っ手だろ」
「お前の追っ手殺すなんて汚いこと僕はもうしないよ!」

フン、と鼻を鳴らして、フィミユはまた早足で歩いていく。
軽い足音が段々遠ざかっていくのが聞こえる。

「……はぁ」

溜息をついて、彼の後を追った。
そんなニウェルを嘲笑うかのように太陽は背を照らし続けた。

「お前さあぁ」
「……何……」

少し先で待っていたフイミユを、手に膝をついたまま見上げる。
そして彼の呆れるような表情を見てまた溜息をつく。
バサ、とフィミユの青いマントが風に吹かれて音を立てる。

「出身、どこよ」
「……フェレーン」
「嘘吐けよ……お前が西の民だなんて」
「あのなー……フィミュー、西、ったって色々」
「煩いなあぁ!」

ニウェルに背を向けて、フィミユは言い放った。
どこまでも冷たい声で。

「認めてやるもんか!お前が西の民だなんて!」

ハン、と鼻を鳴らして、横目でニウェルを見る。

「あの人はもっと……!」
「……あの人……?」
「煩い!」

言いながら、フィミユは走っていってしまった。
駆ける音と、剣が何かにぶつかる鈍い音とが森に響く。

「ちょ……フィミュー!」

ニウェルの声が後ろから聞こえてきたが、フィミユは振り返りはしなかった。
悲しいのか、切ないのか、悔しいのか、虚しいのか。
今の気持ちをどういう言葉で表せばいいかなんて、彼には分からなかった。




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